Essay
-酒と煙草-
000.はじめに
"Smokin' & Drinkin' Limited"のコンテンツはお酒です。これは書き手の少しばかりのバーテンダー経験に
基づいて書いてあります。お酒の本はたくさんありますが、そのなかから知っていたらよりお酒を楽しめるのでは
というレベルの情報を提供していきたいと思います。また書き手の経験に基づいた主観も若干入ってます。
各種お酒のボトルやカクテルなども紹介していきますが、味覚は個人の趣味もありますし、時と場所によって
変わったりもしますから、ほとんど役に立たないメモ程度のことしか書いてありません。選んでいる基準は、
自分の趣味もありますが、一般にも評価が高いものが大半ですので、ご安心を。
お酒は、飲み物ですが、単に喉の渇きを潤すために飲むわけではないですよね。
もしBARなどでお酒を飲むなら、そのお酒について知っていたほうが何倍も楽しめるはずです。
お酒の話をしながらお酒を飲むってのもいいものですよ。
そんなお酒を楽しめる情報を追加していきたいですね。やっぱり。
001.バーテンへの道
僕がバーに初めて行ったのは、実はバーテンダーとしてアルバイトをするためだった。二十歳も終わるころの学生時代の話
だ(まだ5年前だけれども)。バーという空間にとても興味があったのだけれど、なんとなく敷居が高く感じてたし、
何を飲んだらいいのか分からなかった。お酒の知識が必要な気がしたんだよね。そこでバーテンダーをやってみたいと
思うようになって、そうしたらひょんなことからバーテンダーの口が転がり込んできた。「求めよさらば与えられん」だね。
バーへの憧れはどこにあったのだろう。トム・クルーズの「カクテル」という映画があるけど、これは見たことがなかった。
変なタイミングだけれど1年半ぐらい続けたアルバイトの終わった翌日に初めて見た。ジェイズ・バーかな。村上春樹の
「風の歌を聴け」という小説はすごく好きだった。いや、ギルガメッシュの酒場かもしれないが、ルイーダの酒場では
決してない。もちろん。
だけど僕がアルバイトをしてたのは高級なボトルの並ぶようなバーだったので、それらとは結局趣が違ったのだけれど、
それは貴重な経験だったなあと振り返ってみて思う。だって二十歳そこらの大学生がDelamain Vesperなど普通飲めない。
もちろん今だって自分の財布ではなかなか飲めないけど。
なにが貴重だったって、単に高いお酒を飲めただけではなく、高級酒も含めて数多くの銘柄を試飲ができたこと。
お酒について深く知るには、やはり飲むしかない。しかも比較して飲まないとなかなか違いが分からない。
ただ、試飲もそうだけけど、いきなりバーテンダーとしての仕事はできない。大抵の人が想像するように
僕も薄暗いバーのカウンターで黙々とボトルを磨いたり、軽やかにシェイカーを振ったりといった姿を想像していたのだけれど、
そんなことができるようになるには時間がかかった。これはどんな仕事もそうだけど、形ができるまで時間がかかって、
自分が仕事一つ一つにしっくりとなじめるようになるまでさらに時間がかかる。
いまでもたまにそのころを懐かしむ。
夕方になって、整髪して、蝶ネクタイを締めて、サッシュベルトをして、といった姿でバーに入る自分を振り返る。
今だったらもっとそんな一つ一つの動作がうまくできるのではないかな、という思いで。
002.レシピは間違えるもの?
どんな仕事をどんなに注意深くしていたとしても必ずミスを犯すときがくるように、バーのカウンターで仕事をしていて
も、とうぜん失敗をしでかすときがある。カクテルのレシピを間違えるというのはよくあることなのだろうか。
もちろんそんなによくあったら困るけど、どんなバーテンダーでも一度はやってしまうのではないだろうか。
これは記憶力とは関係はない。どんなに通いなれた道だって、間違えてしまうことがあるようにね。
僕自身はそんなに間違えた覚えがないのだけれども、ちょこっとレシピを間違えるのではなくて、まったく違うカクテルを
出してしまったことがある。使うグラスと、ベースのお酒が同じなだけでなく、色が似ていたんだよね。
そんなカクテルたくさんあるから、いいわけにならないけど。
普段のようにカウンターで仕事をしていて、ウェイトレスからオーダーを受け取って、
そのカクテルを作り終わって、なんともなく別の仕事をしてるときに、あっ。さっきのカクテルぜんぜん違う、と突然間違いに気づいた。
ちらりとお客さんの様子を伺ってみると、特に変わった様子はない。もちろん毒を飲ませたわけではないから、苦しんでたり
するわけはないけど、間違いに気づいた様子がなかった。そこでほっとして何事もなかったようにしばらく仕事をしていたら、
ウェイトレスから同じお客さんの同じオーダーを受けてしまった。
さて、ここであなたならどのような行動に出るだろうか。その時の僕の頭にはすぐさま二つの選択肢が浮かんだ。
ひとつ。さっきと同じ間違えたカクテルを出す。だってさっきと同じもの飲みたいっていってるから。
ふたつ。正しいレシピ、というか正しいその名前のとおりのカクテルを出す。だってほんとはそのカクテルを飲みたかったのだから。
ただ、二つ目の選択肢を取ると、おやっ、さっきと違うものじゃねーか。というお客さんの反応を引き出してしまうリスクを負ってしまう。
結局10秒ぐらい考えて、僕が取ったのは二つ目の選択肢。自分の良心を満足させつつ、そもそもお客さんは
酔っ払っててそんなことに気づきもしない、というかそのカクテルが本当は何かなんて細かいことに気を使ってない寛大なお客さんだ
と思われたから。その二杯目のカクテルを作った後もそのお客さんの様子を伺っていたけど、なにも言われることはなかった。
そんなこともあったから、僕が飯田橋のとあるバーのカウンターで飲んでいたとき、注文とまったく違うカクテルが出来きても、
なにごともなかったようにおいしく頂きました。そのときのバーテンダーがそっとカウンターの隅でカクテルブックを
何気なく見て、しまったって顔をしてるのを横目で見ながら。今思うと、「同じものを」と頼んでみればよかったかな。
003.お酒の飲み方
バーという空間に敷居の高さを感じている人は結構多いのではないだろうか?
なんだか高そうとか、何を飲んでいいか分からない、暗黙のルールのようなものがあって
そこから外れた注文をいけないのでは、といったイメージ。
僕は社会人をやっているのだけれど、今でも例えばお寿司屋
さんなんかにはそういうイメージを持っている。バーにもそういうイメージを持っていたことがあって、
バーテンダーをやろうと思ったきっかけにも、客としての使い方を知りたかったという
理由があった。でも実際バーを営業する側の視点をもてたことで、より深くバー、お酒を楽しめるようになったと実感するなあ。
例えばスポーツを観戦するにしても、そのスポーツを詳しく知っていたり、実際に競技者としてそのスポーツに
取り組んだことがあると、まったく違うレベルで楽しめることができるのと同じかな。
バーにもよるけど、バーで飲めるお酒の種類はカクテルを含めなくてもかなりの種類がある。
そのあげくにメニューがなかったりするお店があったりする。
そんなバーに行ってしまうと、なにがあるんだ、なにを飲めばいいんだと狼狽したあげく、
なんか洒落たものを頼まなければならないのでは、という余計なプレッシャーを感じてしまったりするんだよね。
しかし、そんなことはまったく、バーテンダーを実際にやっていた経験からの実感だけど
お客さんが何を飲もうと、どうでもいい。あまりに通でかっこいいオーダーが
続くと、おっ、と思ったりもしますが、そんな場合は大抵同業者だったりする。
逆に変に無理してかっこつけてるなあという注文というのもよく分かる。
やはり自分が好きで、無理なく飲めるお酒を飲むのが一番健全なのでは。
そうはいってもどんな選択肢があるのかすら分からないという方は、バーテンダーに
聞いてみればいいだけで、適当なものを勧めてくれるでしょう。それがバーテンダーの仕事でもあります。
かくいう僕はどんな飲み方をするのか?
まず最初はごくごく飲めるものがいいですね。ごくごく飲めるといえばビールです。
最近はハイネケンを好んで飲むのだけれど、なければなんでもという程度。
ごくまれに、ビールという気分ではない夜は、あまり甘くないごくごく系のカクテルを、
例えばジン・リッキ−などを飲む。ちなみにお勧めは「テキーラのソーダ割にライムか
レモン搾ってください」という飲み物。なんかこういうカクテルあるのでしょうか。
とりあえずいつも「テキーラのソーダ割にライムかレモン搾ってください」という注文の
仕方をしている。
その後の2杯目以降については、面倒なときは「同じもの」ですませてしまう。ごくごく系はもういいや、
という時には、もちろん別なものを頼むんだけど、基本的に甘いものだめ、強い酒好き、なので
ウィスキーのロックもしくは強いカクテルを飲む。ウィスキーも好きな銘柄が2つ3つ
あるのでそれを頼んでしまうし、カクテルも頼むものは2つ3つで決まっているので、簡単です。
こういういつものめる好きなお酒リストがあると便利ですね。なにせお酒の種類は多いので、いつも「う〜ん」と
悩んでいると疲れますからね(もちろんあらたなお酒を探求するときもあるけど)。
最後の一杯に飲むとしたら。実はこれはちょっと悩んでしまう。今夜はこれでおしまい、
というお酒だからなあ。さっぱりしたカクテルか、ちょっと最後だけ甘いカクテルを飲んだり
するのかな。さっぱりしたものならXYZやスティンガー(ちょっと強い?)
甘い系だとグラスポッパーやアレキサンダーをよく飲みますが・・・。
基本的に僕流のお酒の飲み方は、好きなものを好きな順番で飲む、それだけです。
ただ・・・・さて次はなにを飲もうかな、なんて悩んでたはずなのに、気が付けば
家、時計を見たら朝の9時、しかも平日!なんて飲み方は最悪ですね。
もうそんな飲み方はしないぞ、と心に誓うのだけれども、お酒を飲んでいるときに
そんな誓いを思い出したことはいまだかつてないなあ。
Smokin' & Drinkin' Limited/mist@blackash.net