えーとですね。評論というほどではないんですが、まあとにかく自分にとってインパクトのあった音楽の感想を書いてみましょう、という企画なんですけど。
当然趣味に偏るわけですが、まあそのへんは気にしない方向で。

記念すべき第1回は、『SLIDE〜christmas mix』(Flipper's Guitar)です。
これは、私のベスト1、今まで聴いたあらゆる曲の中でどれが一番いい? と訊かれたら迷わずこれと答えます。光より速く。



SLIDE〜christmas mix


Flipper's Guitar


black@blackash.net



Flipper's Guitar。ある意味伝説のユニットでしょう。
1989年から1991年までのだいたい2年間、東京を中心に駆け抜けていったはずです。
メンバーは、変動がありましたが、軌道に乗ったのは、小山田圭吾と小沢健二の二人になってから、なのでしょう。
小山田圭吾は、現在ソロユニット「Cornelius」で活動中(代表作:『Star Fruits Surf Rider』)、父親は『マヒナスターズ』のメンバーだったということ。小沢健二は、Flipper's Guitar解散後の1995年あたりにソロで大ヒットしまして(代表作:『Lovely』)、叔父が著名な指揮者の小沢征爾。
その二人が、組んでいたのです。

Flipper's Guitarについては、本当にコアなファンが今でも息衝いています。詳しい解説は、その人たちに任せたい。
何故なら私は、Flipper's Guitarが活動していた当時、彼らのことを知らなかったのですから。

しかも、Flipper's Guitarの作曲技法は”サンプリング”と言いまして、あっさりと言ってしまえば古今東西の曲を切り貼りして編集して全く別の曲に仕上げてしまう、というもの(これを”パクリ”と言う人もいるでしょうが、まあそう言いたいのでしょうから私は別に構いません。サンプリングで作られた曲が厳然とそこに存在しているのは明らかなんですから)。
その、Flipper's Guitarがサンプリングした元ネタについて、私はほとんど知りません。主にイギリスのロックが多いようですが、残念ながらまだ聴いたことがありません。

コアなファンから見れば、私がFlipper's Guitarを論評するなどおこがましいにも程がある、という感じなんでしょう。

そういう、まあ有体に言えば素人が、Flipper's Guitarを最上としている、ただそれだけの話ですけど。




彼らの代表作ですが、『恋とマシンガン』がドラマの主題歌になっているそうです。『Groove Tube』もかなりのスマッシュヒットだったようです。
デビュー当初は全詞英語だったのですが、『恋とマシンガン』から日本語に切り替わってます。

作曲は二人の共同作業かな。メインボーカルは小山田圭吾、作詞とサブボーカル(ハモリ)は小沢健二、というスタイルが多いですね。
小山田圭吾の幻想的な膨らみと流れを持つハイトーンボイスに、小沢健二の驚異的な作詞力と絶妙のハモリ。

アルバムはオリジナルが3枚。『海へ行くつもりじゃなかった』『カメラ・トーク』『ヘッド博士の世界塔』。そしてその他にSinglesやライブ収録版が2、3枚。




で、この曲、『SLIDE〜christmas mix』ですが、シングル『LOVE TRAIN』のカップリング・ウィズとして収録されています。アルバムでは、2作目の『カメラ・トーク』。

夢の中を漂うようなメロディが印象的でした。そこに小山田圭吾の、まるで夢を見ているような茫洋としたボイスが覆い被さって、時に囁く小沢健二のハモリ。極めて論理性のある不条理として続いていく幻想的な歌詞。
そして、サビのダブル・ボーカルは、二人だけなはずなのに輻輳的に聴こえてきて、夢の中なのに何かが切羽詰まってくるような間隔に包み込まれてしまいます。いつこの夢は覚めるのか、心地よい夢にたゆたっているはずなのに、心の何処かで漠然とした不安が生まれ、それが最後のサビで繰り返し繰り返しどんどんどんどん増幅されていくような感覚に陥り・・・
最後はフェードアウトで、結局、夢から覚めることはないのです。




ただ、今この曲を聴きながら書いているこの文章は本当に今この時点で私が感じていることだけを書いているのでした。
私は、この曲を聴くたびに今まで抱いた感覚とは違った感覚を思います。だから、次にこの曲を聴くと、きっとこの文章は、違う、と思うことでしょう。
私がe.t.c.コンテンツに掲載した「THREE KISSES ( with three songs )」のCHAPTER 3 ではこの曲をモチーフにした物語が綴られていますが、この時は、きっとそのような物語がこの曲で生まれたのでしょう。

抱く感覚は甘美であり、不安であり、動揺であり、幸福であり・・・
きっと人間が抱く感覚の全てを聴く人に抱かせしめるであろうこの曲が、まさに七色の夢のようなこの曲が、私は大好きです。