あのとき

かたかたとしゃべりはじめたオルゴールが昼間の耳もとにならんだながい列にほほえみかけると点滅しない信号の粒がきらきらとはしゃぎはじめて鳴き方をわすれたうつくしい羊が低い柵の前でひとみを縦にして途方に暮れています。乾かさないまま寝てしまった嘘が見る夢は自由なかたちにまどろんでやがてへびのようにするりと霧のなかに触れてあとひとしずくを待つのです。昼間にうつろったものは夜にまよう手のひらに言の葉になってしまってもうそこから先へすすめなくなりました。

低い天井にちがいを探している木のとびらを開けないようにしとやかに踏みだした傷はとおくまでこだましていつか失いうばわれた前の道は力なくたおれていきます。その高鳴る予感はいっしょの風にのって使いまわしのもう一回が3つならんだ画面にさよならを告げて気づかないうちにこなごなになりました。ここにいると方をたがえて糸のまわりを縛ったらそっと塵のようにふるまうこころなんてどこかに落としてしまえばいいのだとひろく開いたからだにひとつずつ刻んでいくのです。

しおれた話の面影をお皿にのせて持ちだして路地裏でこっそり食べてしまいましょう。かさねた鍵はいつだって望むそらを離してくれるからろうそくを吹き消して3度上のしあわせを祝うとしろい雲でいっぱいの花束がもらえるそうです。ゆるくまるめた芽がもうすぐほどける丘の上に名前をつけて受け止めた歌にひとすじを寄せてあたたかくなってきた爪のピンクがきっとだいじょうぶとつぶやくのが聞こえますか。こわれそうな自転車が踏みつけてもきっとどこにもなくならないありふれたあの日でした。