やさしさ

どうせ訪ねてくる人はいないから、わたしは人にやさしくする。ねむれないのに無理やり閉じたまぶたの裏で秋が色もなくこぼれていく。境目はきっとどこかにあるから、どうか私が待っていると伝えないでください。目を閉じても開いても、世界は同じ色をしている。

わたしが人にやさしくしていることをだれも知らない。聞かれないから答えることもないけれど、だんだんと月は大きくなって、空に赤くにじんでいく。それは見たくもないものをわたしに見せて、誰かが失敗するよう祈っている。やさしさとそれ以外しかないこの世界に置いてきぼりにされたわたしは、ずっと誰かを待っている。

何かをはっきり言うと責められるから、そっとしぐさで伝えたい。月がきれいだとか、もう死んでもいいわとか、そんなことをしていいのか、これはわるいことなのではないか、すいと差し出された透明な手に、わたしは必死にねむろうと、消えてしまおうと、ゆうべに目を閉じるのです。そこは明るすぎて、そんなところにいたら殺されてしまう。