シヴィライゼーション

月や星に手を伸ばすというフレーズはよく聞きますが、実際に道端で月や星に手を伸ばしているひとを見たことがありません。同じように、自分はひとりだと嘆いているひとは、だいたいひとりではありません。自分を花のつぼみにたとえるほど思い上がってはいません。けれどあまり気に入ってない靴で出かけるとすごくいいことが起きたり、100円ショップで買った食器の方が長持ちしたりすると、わたしは目の前に止まっている車が急に動き出したときのように立ちすくんでしまうのです。

ひとは流した涙のぶんだけやせていきます。だから子供のころのわたしに伝えたい。おとなになったらちっともほめられなくなるから、今のうちにいっぱいほめられておいてね。それとも、ほめられるのに慣れてしまうとおとなになったときに叱られてばかりで胸が痛くなるから、ほどほどにほめられるくらいでいいよって伝えた方がいいですか。いつしか雨は弾丸となったので、この世に傘がいらなくなりました。みんな雨に撃たれて倒れていって、それを見たひとが流す涙がまた雨になるのです。まいにち弾丸が降り注ぐこの世界で生きてるだけでえらいよ、おとなになるだけでえらいよ。もうすぐ死ぬけど。

夜ごと流れる星なんてなくなってしまえばいい。願いが叶うとそれに懸けていた思いを忘れてしまうから。つないだ手なんて離れてしまえばいい。手をつなぐと手の熱があなたに吸い込まれてしまうから。みんななにかを叶えて笑顔で手をつないで先に行ってしまってわたしだけここにぽつんと立ったまま、周りは水晶のように透きとおってとてもきれいです。思いも熱もなにもかも、きらきらするものを抱えてもの持ちがよすぎる病気にかかって久しいわたしはずっと子供のまま、夜ごと流れる星に、この世から両想いというものがなくなることを願っているのです。