ホイッスル

ふとしたしぐさの透け感になにも返すことができなくて空回りして、柱に隠れた差し色に寄せて今日を振り返ります。星屑は一度きらめいたらもう二度と光ることは許されなくてすぐにこわれて消えないといけないから、ずっと敷かれたレールの上を走っててもその行き先がわからないならそれは知らないひとに宛てて書いた手紙と同じで、どこかに香るまるいあくびがふっとわらったような気がして振り返ったけどもうどこにもいませんでした。おおきくひとつ伸びをして、すっきりときれいになった最初の今日と最後の明日の間に秘密を隠します。

ガラスが割れたらだれかが死んでしまうって子どものころに気づいてからお皿をかたすときは不安にふるえて胸がどきどきして、ある日ちょっと手がすべって三人くらいやってしまったときはかかとから背中になにかがはい上がって立ち尽くして、ちりとりの上でもう役に立たなくなったそれを黙って見送ることしかできませんでした。二度とこんな無辜の血を流すことがないようにと誓って、そのおかげかどうかわからないけど大人になってからはスマホを落としたことがありません。ひびの入ったスマホの画面を見るたびにだれかの命が失われているからそっと胸に手を当てて祈りをささげるのです。

そうして紙飛行機が切り取った空が画面の中に線を引いて分かれていくのを止めることができなくて、あてどなく裸足で歩いていった先にはお湯がわいて流れていて同じメロディが上ったり下りたりしてる中でゆっくり髪をカットしたりして、もうきっとわたしの皿も割れる準備ができてるんだってひとつふるえた後は不思議なくらい落ち着いて最後の手紙を書くことができました。グラスが空いてコルクの栓が抜けて飛んだらページがめくれてわたしのサインを待っているから、今のうちにさらっと記すことができるように練習しておきます。最期くらいは利き手でない方の手で背伸びしてみたいのですけど。