初秋

とおくとおく弱酸性の雨が幕間とビルの間の花を濡らして、重なり合った水の模様はなにかを忘れるためにではなくなにかを思い出すために、砂利道の音から逃げて土の道へ、きれいにそろった松の葉に指を伸ばしても叱らないでください。行き止まりの笹の中に趣があるのかも、薄暗い木々の香りに風情があるのかも、ふらふらしてるだけですけど写真はぜったいに撮りたくないのです。汚れていくスニーカーがふっと笑ってわかったようなことを言ってたみたいだけど坂を登るのに夢中で気づきませんでした。

碁石のような月は幕が上がっても追いかけてこなくなりました。深緑の夜に一面に咲く黄色い星は木漏れ日に慣れてしまった目にちかちかして、もう一回まわろうか迷っているうちに花畑の先に行けなくなって、上からからまるつる草に抱きしめられたから明日は占いに行くことにします。あまいお酒を口にする前にもうすこしだけ花冠をかぶったふりをして、枯れた葉はまだおそるおそる耳をすまして散っていきます。手のひらを差し出してもこんなにうまく逃げていくのが時間をもらっても不思議に思うのです。

いつか花でなくなった星がどこかに落ちた後に、音を聞かない木の中に流れる水の音のひずみが幹を曲げて、ひとはそれを美しいと思うのです。寄りそうひとは背中を押されて茎をそっと手折ろうとするけど潮風がやわらかくそれを止めるので、すれ違うたびにだんだん色あせていく視線を季節に重ねてしまって、閉じた熱にまぎれて隠そうとしています。芝生はずっと青くてそこに座るとずっと呼吸が平らな地層のように重なりますが、その後においしいものを食べるとすっかり忘れて今日一日が波の泡に消えます。