去り際

人並みに映画とかドラマを見てるつもりですが、今まで「そう、なんだ…」って台詞をうまく言えてるひとを見たことがありません。ライブ中のMCみたいにそこで冷めてしまって、歯をみがきに洗面所に行ってしまったらもうテレビに戻ってきません。歯みがき粉は多めにつけて、力ができるだけ入らないようにゆっくりと、宝石をみがくように、子どもをなでるように、子どもはいませんし子どもにはあまり好かれてないかもってうっすらと自覚しているけど、ねこアレルギーのひとだってねこをだっこしたいんです。ねこには迷惑かもしれないけど。

なにかを決めるときにだれかに話をきいてしまうひとへ、爪の縦線を気にして本のページをめくるのがきらいになりませんように。本棚の一番いい場所には好きな本を置かない方がいいのだけど、そこが自分の好きの重心のように本をそろえてしまうひとはきっとコンパクトも合わせて手鏡を4枚以上持ってます。気をつけて、気をつけて、赤い色をこぼすと取り返しのつかないことになるから、メッシュの背もたれのほこりはちゃんと払って、めがねをかけてるひとはちゃんと拭いて、すてきな絵が目の前を通りすぎたときに見逃すことのないように、それがここにいるということ。

さわらないで、いま生まれたばかりのわたしは唇が腫れているから、無神経に抱き上げようとしないでください。なにかをしてほしくて消えたひとの血が流れてあたたかく心地いい温度が手のひらを潤していきます。そばにいればいるほど花は枯れてだれかの栄養になるからいらない花を買って部屋中に飾っても偽善ではないって言い切ることができるのに、もっときれいなのがいいって言われて笑顔でうなずいてAIに聞いたらもうわたしは用なしだって、春を迎えると花が散っていくからずっと冬のままでいいって願うひとはけっこう多いんじゃないかって思うのです。