合わせ

顔を隠した自転車がだれもいない公園にひとりぼっち、路地裏から飛び出たカーブミラーに映るわたしはぜったいにわたしじゃないから、階段を上るときに足元ばかり見て上から降りてくるひとに気づかなくても手を振って未来に移るわたしは郵便受けからはみ出たチラシといっしょにごみ箱の中です。どんなに気持ちを張ってもぴんと伸び切らない指がすごくそれらしくて、お日さまの微熱でぱりぱりになったオブラートにサインしたらけっこういい感じにぱりっとした袖になって棚のほこりをすっとふき取ったような気分で今日もがんばれます。

白黒の笑顔はこんなことで泣きたくないから一生懸命わらっています。それは噓ではなく笑いたいから笑っている心からの笑顔なのにそう見えないって責められて、パックだけ売っても誠実じゃないって怒られて、だんだんなにもかも貼りついて凍りついたような返事はほんとうにそのひとの真心が込められたものです。手と手を合わせたらすごくほてってるのにびっくりして恥ずかしくて、本屋さんでは必ずブックカバーをつけてもらいたいけどときどき申し訳なくて、なにかの気持ちの持ちようでなんとかなるならそうしたいのですけど。

いつもの店に行かなくなるきっかけってたくさんあるかもしれませんが、ほんもののなにかを食べたり飲んだりしたことがないんだねっていうひとが隣の席に座ったら偶然が重なった感じでたぶんそうなるんだろうって思います。そういうひとって不思議と自分より立場が上のひとにはなにもいわないってことに気づいたときにはいろいろともう遅くて、ひとりで過ごすのがすきって言わない方がいいって気づいたときにもいろいろともう遅くて、いつもなにかを早めにできたことがない自分にうんざりして、ちょっとひと休みになるのです。