部屋着で番号札を下げてスリッパをすって歩いていたらはちみつにひたしたクラッカーをもらって喜んでいた記憶がガラスのような氷といっしょに溶けていきます。こうしてぼんやりと椅子の上で夢うつつになってるのはなんでだったか、ついさっきまでいろんなところが緊張しすぎてわけがわからなかったのにそれも忘れてしまったようです。手がしびれてきたら頭が痛くなる合図ですけど、どうしても泣かなければならないならうれしいことではなくかなしいことで泣きたいから涙はがまんしています。
体のどこかが痛かったはずなのですが薬を飲んだかどうかも震えていたかどうかもぜんぜん意味がないことで、まわる洗濯機がわたしをつやつやにしてくれると期待したのがばかだったのです。一輪の花の後、これから向かうちいさな港についたら役目を終えるのですからそれまでいちばん先に置いてもらえれば、これ以上取り返しがつかなくなる前にゆれる船を止めることができるはずです。痛いのはどうにでもしますからその着信音をとめて、花びらがあざやかに染まるのをみんなに見せてあげます。
こころまで変わらなければ変わったとはいえないけど長くて細い指はそのあかしとして取っておいても罪にはならないですよね。がたがたするテーブルの脚と合わせが逆のボタンがふっとわらって去っていったのでわたしもベッドに戻って矢印の向きに沿って座って待っています。唇を閉じたままエレベーターの前でためらっているひとへ、そこかしこに散りばめられた星屑に似せた売り物は失敗作たちですから背伸びしているうちに雲の裏に隠して作り直すことができますよ。できるだけていねいに笑顔を貼り付けてください。
