浜辺の日差しの後ろに隠れた写真に切り取ったものはぜんぶフィクションになることを思い出してください。祈るひとが消えて空だけになった夏は青すぎて、息をついた麦わら帽子とレモンに記憶を奪われた波がいつしか打ち寄せるのをやめたときに砂の上の足跡がずっと残ることに耐えられないかもしれません。はしゃぎすぎたガラス玉の外の光が移り変わる一日をワントーン上げたらきっとそこになにがあるか確信するから、今はまだ屋根の影にそっと膝をかかえて待っています。
まぶしくて閉じた思い出の向こうは指の先で凍ってすらっとしたカクテルグラスの中へ、ずっとセピア色のままでいてほしかったってつぶやく声は炭酸の泡に溶けてほしかったのに、日焼けを気にするようになってからずっと夏の笑顔は日傘に隠れて、まっしろなシャツばかり着たがってたのもきっともうすぐに雲にかすれて、熱っぽさが残ったハンドタオルが階段に置き去りのままカレンダーの上の一日になっていきます。もしもさいころを振ってその数字に喜んでいたときに戻りたいのなら。
これから過ぎていく夏の扉をさえぎらないようにカメラの位置を直して、満天に広がる星のひとつをお気に入りに入れて横目できっともうすぐ降る強い雨にかき消される声をたぶん知ってます。晴れと雨の間の曇りの一日になにもしないのがだめなんだってずっと前からわかってるのに、転がした気持ちをあきらめて最後はだれかの前で手を振って上書きされておしまいです。そうやって強いことばに焦がれた髪はひとり夜空に沈んで重く濡れて乾かされることもないまま立ち尽くすのです。