夏の夜は短くて、沈みきれずに雲にひっかかった月があわててお化粧し直したのが今日のお日さまです。ちょっと白浮きしてるかもですが日差しはやさしいからゆるしてあげましょう。お昼をすぎたらきっと舟をこぎ始めるから櫂を隠してがんばってもらって、長い夏の午後の終わりに空を焦がす力なんて残ってなくて、やっと眠れると思ったらまた夜です。今日くらいはお日さまに代わりを頼みたいかもしれませんが、夜が明るすぎるとだれも隠れられなくなってしまうからあともうすこしだけ。
ざらつく坂を上ると見えてくる月が夜なのに空に星が光るのは夜の向こうが朝だからってうそぶいて、5番のポジションにどうしても入れないわたしのことをずっとながめています。夜を流す光はだれのものでもないのにわたしのものにはならないなんてずっと否定するばかり、夜を刻む音はわたしからも流れるのにだれのものにもなれないからそっと涙するばかり、町の明かりがゆれるのはいつものことのはずで、スマホの画面がまっくらになったときに取り乱す自分になんの疑問もないのですから。
夕まぐれに焼けながらゆっくり冷めていく気持ちはこれから入る夜を思って宵のころに静まって、閉めた窓に残った指のかたちは不思議なほどに離れていきません。着替えようとしても深い夜は肌に貼りついて、暗い道の向こうで振り返るねこを追いかけたら帳の間に行けるのでしょうけど、それはすぐに薄くなって曲がり角の先に透けてしまうのです。爪の先に降りる光はあなたにあげますから、まっすぐにならないこの視線はだれのものでもないことだけをこころにとめて、夜をはがしたらわたしは朝になります。