いつもよりすこし高い靴を履いたって見える景色はそんなに変わらないのですけど、笑顔っていちばん個性が消える顔だから通る声にいつもにこにこして時の間を歩いています。黙っているのがいちばん楽だって甘えているとサイドテーブルを選ぶのにとても時間がかかることをわかってもらえないかもしれなくて、遠くと近くのひとが本を読むことすらできなくなったら今日の夜はどんな色を塗ろうかぼんやりとまるくなって、きっと明日はミルクに溶け切らなかったココアの粉がじゃりじゃりするような一日です。
古い町並みといわれているところの道はどこもなんだか同じ色に見えます。そういうところに売ってる結びの鈴の玉はころころと音を切って、日に透かして見ると赤い紐の輪郭がすこしだけ薄くなる仕掛けが施してあります。それでも写真を撮ろうなんてかけらも思わなくて、欄干の向こうに自分が持ってるものを差し出して隠された先にあるなにかを手に入れられるひとはとてもしあわせなのですから、せめて同じ本の表紙をそっと払って棚にしまうしぐさはきれいにできたらいいなと思っています。
お水をたくさん飲めばいろいろよくなるっていうから冷蔵庫にはペットボトルがぎっしり詰まってます。明日はなにかよくわからない理由で減っていく絆創膏を買い足してから八百屋さんに行こうかなとか予定を立てちゃうときっと急に雨が降ってきたりします。いつものスニーカーはもう見送られることがないって知っているからおとなになっても体の温度が下がらないように、たまには遠く砂の降る町の真っ白な石造りの建物に触れた手のひらが汚れてしまっても見ないふりをしてくれるとうれしいです。