屋根

電車の灯が流れる滝に飛び込みたくなるときにはいったん目を閉じて水の香りを思い出したらもともといた場所に戻るから、日が欠けるころにもう一度おなじ場所に歩いていって今度は朝の空のにおいを思い出してください。言いたいことはたくさんあるけど言えないことは言えないと言っていいのかわからないまま過ごしてきて、やれと言われたこととやりたいことがアンバランスなまま落ちていくのを(高いところはこわいのに)滝の上からずっと見つめてきたのです。偉いひとになりたくないひとたちばかりだけど偉いひとがいないと偉いひとが困るんだって言ってました。

本を開くと届かない星に恋が落ちて、折りたたまれた夜の外にやわらかくはずんでいきました。一枚一枚ていねいに梳いた羽で探し回ったけど出口はどこにもなくて、ずっとここにいてもいいよって耳打ちするのはそうやって閉じ込めるつもりなのですね。そんなつもりもないのにずるずるとそこにいるのもわるいのかもしれないけど、こだまする影はぼんやりと熱をにじませてやがて蒸発して消えてしまうから、ひとの影の中にいる方が楽だっていうひとたちが影とひとを結びつける足の裏をひっぱって離さないのです。輝く羽がしおれてしまうそのときまで。

ミント味のなにかを思い浮かべたら初夏の風に乗るチャンス、あまり甘くないのがおすすめです。充電が終わらないスマホは置いといてまずは空を眺めましょう。青いときも青くないときもささやきはぜんぶ透きとおって聞こえてくるから、すべる長い手でできるだけたくさんのものを抱きしめようとしてそれができてしまうとぜんぶ持っていけるって勘違いしてしまいます。階段がたまにいじわるをして渦を巻いて流れる砂にしずかに沈んでいくときに、眠りにつこうと目を閉じたら心臓がどきどきしてうるさいって思うひとだけがいのちのかたちはハートではなく四角だったことに気づくのです。