パスタメジャーで計るとすこし量が多いような気がします。リアルで感じるぬくもりがいちばんだってだれも思わなくなることが世界にとってしあわせだから、わたしたちはだんだん弱くする音楽の記号の名前を思い出せないときと同じように忘れてしまいました。みんな世界のことも仕事のことも、となりにいるあなたのことも、わからないことをわからないままにしておけるのはおとなになったからだとかたくなに信じて、目薬の一滴をちゃんと瞳に落とせたことやいままで入らなかった指に指輪がつけられることに満足して、昨日と違う方向を見つめているねこの置物をさっと拭いて眠りについています。
坂をくだるときに口内炎が痛いから今日は散歩には行かないと決めたはずなのに、気づいたらカフェで本を読んでます。痛い、痛い、口内炎はだれかに恨まれてるときにできて、にきびはだれかを恨んでるときにできるって聞いたことがあるけど、パン生地の発酵がうまくいっていまこの瞬間世界一ふわふわなものはこれだって思ったことが一度でもあるなら、凍った爪がはがれるように、恨む気持ちもはがれていくものだと思うことはできませんか。はがれるときにすごく痛いのを知らないままがまんしろって勝手なことを言うひとの耳もとでそっとそうささやいて。
冬に咲く花を見て思うのは、陰キャ陽キャの区別はなにかを多くのひとに共有するかどうかだって、その花が咲いていることをだれにも言わないから花はじぶん以外のだれにも見られずにいのちを全うして枯れてしまうか、その花が咲いていることを伝えて見に来たみんなのこころに残った後にだれかが間違って花を踏んでしまうか、どっちが花にとってしあわせかなんて花はなにも言わないから、ひとが勝手に花の気持ちを決めつけるのが国語の授業のことわりです。ねむってしまった脳みそは世界がそれを許していて正しいって疑わないから、ひとはこうして文章を書くたびになにかを決めて柵で囲っています。