救い

ありがとうの高さや深さを計測するひとがときどきじゃまなことばを消してはお仕事ばかり、オフィスの机のすみっこで冷えきったお礼が遠慮がちに声をかけてもだれにも届きません。3本ぜんぶ長さが違うアンテナでは世の中のことわりを変えられないようですからわたしが変わるしかなくて、久しぶりに黒板を見つけて目をきらきらさせながらなにかを書くためになにかを書くような日々の中、やわらかくあまいグループの話についていけなくなることに気づいて偏食を直そうとか思ったりするのです。

もし歌がなにかを伝えるためのものならばみんなが満ち足りたしあわせな場所にはいらなくなります。わたしの住む町から当分の間、歌がなくな、りそうもないことはきっ、とだれかにとって、たった今ミスタッチしたときにしなやかに羽ばたく翼の歌が聞こえてきたような気がして、そこに歌がある限り幸せになれなくてもそう望むひとがけっこう多いかもしれないです。レモンティーに合うジャンルを探していたのに検索してもぜんぜん出てこないから聞くのをやめたその瞬間にすこしつっかえてほっとしたのでした。

すこし高くなった空にはしごをかけて色とりどりの星を狩りに出かけました。雨の降る部屋に傘をさしたまままたたきを重ねてかすめてほんとうは見える左目を隠したままさようならのあいさつをしたら、おおきい犬は自分がかわいらしいことを知っているからこっちに走ってくるのです。いらなくなったリード、わたしなんかいなくてもそれでも、かごの中の星はフライパンの上できらきらとおいしそうなソテーになって、この世界は回っているのではなくてずっと昔から落ち続けているのです。夢の外で。