星の輪

荒れた指先で空の文字をなぞったら上のほうから聞こえてくる星の羽音に似ていました。時の限りに歌うひとはもっとすてきになりたいって風に吹かれているのかわからなくて、そのひとを思うだけでいまはうれしいって貝がらを耳にあてて、引っ張られた糸と出会って変わったひとはそんな自分が好きになれるのでしょうか。これから星たちはそっと羽根をのばしてあじさいの蕾にねむり、細い雨が降ったそのときにほどけていくのを待っています。あわい日差しも白い雲もつめこんだかばんはもうはちきれそうです。

かばんを開けたらひんやりした細い指に遠い歌が道をなくして、夜が来る前に干し草の香りがないはずの記憶の向こうの扉を開けようとしています。気をつけて、手にしたグラスを落とさないように、急かす汽笛にあおられた帆はきっと鈴の音と違う風をはらんで、古びた本と叶わない夢はまるい星空にほろほろと崩れていって、いつかこの世界にひとりだけになってもまだ終わらない手品は面影を探しつづけるひとの果たされない約束をたぐり寄せて閉じ込めてしまうから。もう一歩も前に進めないとしても。

ふと雑貨屋さんで手にした檜の木片がとてもいい香りだった日に、せっかく作った唇をはやく開いてっていらいらしないようにしましょう。重たければ重たいほどみんなが何を言っても動かなくなるなら、そういう気持ちだってそんなに悪くないんじゃないかって、星だって円を描いてたくさんのなにかを押しつぶしてきたんだから、そのときになにかが終わったっていわれても、刺青の針はきっとわたしのどこかに色を入れてそっと空をめぐり、たとえ神さまに禁じられたってわたしは同じことをするのです。