どこかの神さまが白い絵の具で雑に落書きしたような雲をクレーンに吊られた柱が通りすぎて切っていきました。大きな川を渡る橋でひとつの色に見えていた緑はひなたとひかげで違う色になることを知った風鈴が道に張り出した草をかきわけて、壺のまわりをはねる小鳥といっしょに花の営みに気づきました。そのそばに行かなくなったのはいつからでしょうか。ばらの香りは一輪ごとに違うのにいつからかそれをぜんぶひと瓶のアロマオイルにまかせてしまって、風に揺れる葉に空を透かして見ることもなくなっていたのですから。
流れていく景色をずっと追いかけてくたびれたスニーカーは青い石を砕いて染めた坂道を走りたがっています。上から見た朝焼けの赤と白の十字架は遠くより近くがぼんやりしていて、細い小径に伸びるガラスの苗に届かないようにそっと息づかいを整えて、ざらついた木の幹に手を伸ばして笑うなんて考えたこともありませんでした。日焼け止めなんてぜんぜん効かなそうなお日さまに水をかぶった葉っぱがゆらゆらと首を振っています。冷たくてうれしいのか服が濡れていやなのかわかりませんが、割れてしまうことはないと思います。
緑の丘から降りるバスは溶けてしまいそうで、束の間のおやすみからさめたら見てきた景色はまぶたの裏で連続した切手になって、どこかずれたステップでアーチを抜けたところも鮮明に切り取られていました。みんな話し相手がいるカフェに入るのはなんだか気おくれしてしまって、芝生に落ちた白い傘をぼんやりと見つめているうちに時間になって、待ってばかりの一日はこれでおしまいだからがんばって歩いて帰ろうって日焼け止めを塗り直して麦茶を買って、今日最後の冒険がこれから始まります。
こかげにはひと夏ぶんの蝉のこえ風にゆられてまわる鉢植え