ひと粒の雨から明けた空を一枚だけ切り取って水にひたしたカーテンは雲のとなりでまっしろなティーカップのまるい取っ手をつまんで、ふみ出したスプーンひとさじの砂糖と足並みをそろえたらその跡がきらりとはね返って午後のテーブルの準備ができました。いつの間にかうすいうすい金色のさざ波にこころを取られてちいさな弱さに立ちすくんでしまう前に飲みほして、まだおそい未来はわからないこととかわらないことに満ちています。そよ風が静かな息づかいでさいごの席についたようです。
どこを切っても白い時間はやがて近づくはずの思い出に届かないままゆれるランプの影にいくつかの記憶として処理されていきます。さらりと目の前を通りすぎた答えはとてもつめたすぎてまだらな空のどこから落ちてきたのか確かめるすべもありません。そのままもうすぐ夜になるのに照らすものを持っていないなら夢はたとえばピアノの屋根を開いたときのようにただ響きを願うものだと、追いかけてはいけない半透明のいのちが沈まないように祈るものだと、その箱にたいせつにしまったほころびを思い出してくれますか。
そして明日はきっと晴れるからそのことばを吐くようなものにしないでください。ひとが行きつく道ばたの花の色に吸いこまれていくならばかかえきれない数の脈拍にまぎれてそうつぶやいてはいけないのですから。望まなくてもたったいちまいの絵の前で明け渡した居場所はあたたかいはずのからだをやわらかくすり減らした扉になって、まぶたを閉じるときに話を聞かせてくれたやさしい声はうつくしくあわ立つ噴水にしみ込んでいきます。あきらめた回数に手を振った黒い数字は話したくないことです。
