線形

荒れた唇からこぼれたことばもやっぱりかさかさに聞こえますからしゃべりたくないのに三番目くらいのひとから空が落ちてきても星はずっと輝かなければならなくなってたいへんです。そのスイッチをそっと押して、そうしたらだれかをつなぎとめることができるかもしれません(それがいいのかどうかは知りません)。選べるしあわせなんてとてもすくないのにみんな毎日わらっているのはお日さまがいつもずっと笑顔だからしかたないのですが、かばんの中には日焼け止めとか日傘が入っています。

昨日とおなじ形のまま足りないものばかり増えていくのを運命と言い聞かせているひとたちはいろんな形のドアが閉まっていってもやっぱり見えないふりをするのでしょうか。チョコレートの香りの夢はわたしだけにはわらってくれないという合図ですから背中はぴったりと壁につけて、つめたさに崩れていく文字に弱気にならないで、あと一歩、そうしたらつないだことのない手にたどりつくことができるかもしれません。看板が重なる交差点を最後に歩くひとに夜明けの町がふわふわと明かりを振っています。

このところ救急車のねじを巻いてばかりで、しゃがんで置き場所を探すのにちょっと疲れてきました。透明な傘の奥から道路工事で空いた穴をちょっとどきどきしながら覗いてみるとでこぼこな地面のはじまりがあります。ふと風に傘があおられてはじめて体のどこかにスペースキーと同じくらいの空白がぽっかりと空いたことに気づいて、そうしたらかき上げた髪がわたしの中を結ぶかもしれません。まだ知らないことばかりだったころにいなくなった祈りはいくつも届いていたけど、ここからの歌声はもう届かないみたいです。