薄葉

だってみんな手作りのやさしい気持ちがぎゅっとこもった微妙な料理よりセントラルキッチンできっちり作った折り目正しい料理の方が好きですよね。だから世の中にはチェーン店がこんなにあふれかえってて、ちょっと料理ができたからってSNSに載せる写真がまばたきの回数分ストックできるくらいの意味しかなくて、そんなことわかってるっていうひとほどていねいな仕事をわかってるふりをするからそれを待ちながら明るいうちにお風呂に入って軽率に心をアップロードしてしまうのです。

決まったことをつま先立ちで迎えてオーブンの先の焼き色を見るのを楽しみに、指に沿ってぴったり貼ったはずなのにでこぼこになってしまった絆創膏は夏の鈴の木の前でちょっと不満そうな顔をしています。そうやって続いていく高い気持ちはなかなかはがせないままカードを切ってもすっと重くなって、あとひとつを取ろうと伸ばした手はなんだかすらっとしててきれいだって見間違えてしまいそうです。明日にはまたいつもの指に逆戻りでも、ふとはがれた心はやわらかい膜になって傷を隠してくれます。

ところどころに群れて咲く吐息はわたしのなかからゆるやかにその役目を終えて、広い花壇を右回りに踊る歌声を家に帰していきます。だれでもいいからあとひとりでも話しかけてほしかったのに笑ってくれるだけでうれしくなってしまって後でちょっとがっかりして、こすれがちですこしだけ奥に押し込んだキャンバスにこぼれた砂糖仕立てのかさねの色目は切り分けたケーキをほんのり染めて、ほろ苦く甘いなつかしい気持ちに眉をしかめてしまっては負けた気になるから心を静めて、足元の石を蹴らないように。