道しるべ

十の位から借りてきた数字はどこかよそよそしくて、うすい夜にかすむ雲の底がほのかに白い横線を引いたらようやく落ち着いてその下を照らします。目の前に届かないベランダから洗濯物を取り込んでたたんでいるうちにクローゼットが枯れてしまわないように、くらくらする目もとのほくろが古い本の色をしたペンを選ぶまで、背中あわせでひとつの手のひらをつないでフロアを二周したのに結局なにも買わないまま、反時計に回る足の指先がじんわりとしびれたら満天の星が正しい解を教えてくれました。

あたりを見回さないとことばが落ちてこなくなって、あきらめないでという声がここではないどこかにこだましているかもしれないことをひとごとのように思うのです。忙しいという名前がついたやすりで削った時間の粉をためておけば今ごろはただ体が重いのかわからないままベッドにピアノの鍵盤を置いてごまかすこともできたのに、もう思うように動かない指をあたたかく包んで恨まないで、自分のために変わる信号を曲がり角で見失わないで、そこでなにかを配っているひとにどうかひとつのページが割かれますように。

シンプルな円形の線が重なる香りはビジネスシーンに、うすい布の衣擦れを袖にかすむまでほどいた香りはシーツの間に、ずっと座っている造られた花にとって神さまはだれになるのでしょうか。いらない空番のファブリックが左右対称に動けないならガラスの瓶のふたを締めないまま、わかり合いたいのは間違い探しをすることとおなじ意味だから語尾が切れても届いていると信じてもいいのでしょうか。オルゴールを机ではないところに置くひとが壁の向こうに、なにも正しい解を出せないまま飲みこんだ息は雨に濡れて黒いままです。