逢瀬

風船は青空に飛んでいって、ふくらませたわたしの息がそこかしこに隠れています。どんな手袋をしても指先だけ寒い国はここです。そこでは飴玉が一日にひとつだけもらえます。教会の背丈は少し低くて、水をそのまま飲むことは禁じられていました。通貨はアセロラでした。アセロラの中身って見たことありますか。ジュースになったのしか知らなかったかもしれないけど、きっとずっと前から、むかしむかしあるところに、あなたとわたしとアセロラがいました。ちょっと甘酸っぱい三角関係でした。

さざ波が風に乗って星になるのなら、一度着た服はぜったいに脱いではいけなくて、ページの間に隠れた文字が砂消しで削られて砂になっていくのをただ見届けるしかないのです。正しい愛し方を教えてもらっていないひとが思い思いに着飾って、いろんな方法で他人を愛そうとしています。生んでほしいなんて頼んでないってなんでいうんだろうね。それに気づいたときになんで死ななかったのって返されたらどうするんだろうね。わたしはわたしを生んでくれたことに感謝しているから、ぱりぱりとひび割れていく心臓の音が聞こえます。

愛していると本気で言ってるひとはこの世のどこにもいなくて、それは全部うそで、ほんとうに真実の愛を語れるのはもう死んでしまったひとだけだということを、オレンジをかじったときに気がつきました。瓶のふたとかスマホとかを落とすたびにへこんでいくフローリングはたまったほこりを払ってくれるのを期待していたけれど、もう人類は生きる必要なんてないのです。いのちの糸はほかの動物たちが紡いでいくから。にがいお茶がからだの中で反響して、冠をかぶったわたしたちはこれからあいまいに滲んでいきます。