焦燥

いろんなひとに腕をひっぱられて夜をかける彗星は多すぎる着替えとかるい口あたりのお菓子をつめた夜更け色のキャリーケースをだいじそうにひきずっていました。網をかぶったわたしは檻のなかでそれがひとになるすがたを思いながら一歩ごとに抽象的な図形にもどって呼ばれるなみだの熱をできるだけ精度を上げた声でつたえたくてその留め金がはじけてとんでいくのをいくつかの面の上で直角に交差したわたしのからだが選んだふるえとあわせて正確に譜面に残したのです。

風のかんむりのはねは曲がった先でどこかよそよそしくて枝分かれしてはちぎれていくらせん状のひもをまだらに染めて水のながれにまかせるまで織り上げたのにどこにもない花のつぼみの上身頃のわの位置が定まらなくてちょっとがっくりしてひとやすみ、どんな天気でもまばたきができなくなるならこのままずっと地面をはなれられなくたってわたしがわたしであることくらいしか不満はないからかかえている荷物の重さといっしょにひらいていくのをたのしみにしています。

街路樹からいっせいにこぼれて傘を打つしずくはこれからめぐる病のすきまに舞い込んでうそとほんとうの間をいったりきたり、もっとかんたんにくぐれるはずだった時計のはりはすこしずつわたしに追いついて改行をせまってくるのです。わすれかけた顕微鏡が最初から最後まで緊張するコントラストを呼びよせてながいながい吐息の詳細にそこにいないひとをかさねてはっきりとこの瞬間だけを意識したひかりと消えていく尾にトンネルの出口からいっしょうけんめい手を振っていました。