部屋にひとつだけぽつんと置かれた木の椅子の写真が好きです。冬の水は氷のように冷たかったけど、アップデートされたアプリにいつの間にかわけのわからない機能が追加されたことに戸惑ってしまいました。なにもお願いしてないのに花に水をやったから感謝しろって、しらじらしくアンケート画面で今回の体験はどうでしたかって、手を拭いて椅子に座りたいのでアンインストールしたら殺人罪になりますか。ペットボトルのキャップが転がっていると台無しになってしまうこの世界を、わたしは持ってたリップクリームでぜんぶ塗りつぶしました。
コーヒーを飲まないとなにもできないわたしは、デカフェの休日にはなにもできません。午後に起きてゆるゆるとスニーカーを履いてドアを開けて、向こうに抜ける光の先にはなにもないことを知っているから、お風呂に一日くらい入らなくてもいいじゃないって堂々と出かけます。わたしたちには無限の可能性があるって卒業式のときに先生が言ってたけど、そんなものはないってだれも教えてくれなかったからわたしたちはそれに自分で気づくしかなくて、それに気づいたときに履いてたスニーカーが水色だったから、散歩が楽しくなりました。
お酒でコーヒーを淹れてる動画を見て、これなら飲めそうとか思ってしまいました。けどそんなことは絶対になくて、それに期待してもわたしとは違うひとがわたしだと言っているから、わたしとは違う未来を映すその瞳がぽとりとこぼれ落ちたらその転がっていく先の景色を見たくて、ずっと瞳についていきたくなるのです。きっと世界の裏の裏まで見届けられたら、わたしは満足してベッドに入って、自由ってなにをしたらいいかわからなくなることだと気づいて、真っ赤になったその瞳をごみ箱に捨てて夢の船に乗るのです。