上を見て

特定のだれかにではなくみんなに向けていつもありがとうっていうひとはなにか心にやましいことがあるからだって、いつもなにかを否定してばかりいるわたしがそんなことをいう権利はないけれど、同じ未来を見たいっていわれても声の彩りがぜんぜん違うから、そこに降る雪がまぶしすぎてどうしてもうつむいてしまいます。あこがれからこぼれていくものに気づいた瞬間の感情に名前がないことをわたしたちは誇るべきだと思うのです。

朝がどこかに出かけてしまってずっと昼と夜ばかりの世界で、寄せては返す波が「おめでとう」と「おいしいね」のふたことだけをずっと繰り返してつぶやいています。きれいにそろった本棚のようなことばが固まって指輪になって誠実なほんとうをあなたの薬指に飾るなら、結晶した星はどこに行けばいいのでしょう。新しい星がいま生まれたから、今日のわたしの夕ごはんはカレーです。

どこまでも上っていく重力がわたしを連れていこうとしているのはきっと涙にあふれた場所です。そこではだれもかれもが涙を流して、それを売って日々をしのいでいます。きれいな涙、よこしまな涙、こころからの涙、うそっぱちの涙、みんなお値段はいっしょですからお買い得です。鳥の羽ばたきがひとつスマホに通知されてみんないっせいに空を仰いだから、こぼれた涙でみんな溺れて死んでしまいました。その知らせに涙がこぼれました。

わたしはあなたに愛されているときだけここにいます。