種火

いつだっておかしいのはわたしだって純粋な宝石のようなアドバイスをくれるひとは、その宝石の角や冷たさで傷つくひとがいるのを知らないし、それがやがて汚れてそうして色あせた宝石をかかえただけのあわれなひとになっていくのを見たいと思っているひとがいるのを知らないのです。そのきらきらとかがやく宝石を汚す指紋はできればわたしのものであってほしいから、さわるときに手袋なんかつけてあげません。わたしをきらいにならないで。わたしのくちびるの温度は冷たくて気持ちよくないですか?

ないものはない、なんでも持ってる。ないものはない、持ってないものはあげられない。掃除した後に落ちている糸くずとルーラーの関係はたぶん空の向こう側にひかっている星くずと消しゴムの関係と同じだと思います。みんなが望むきれいな世界はもうすぐそこ、いま立っている地の底でうねっている泥を食べればたどりつきます。親切に教えてあげるからみんな協力して泥をぜんぶ飲み込んで、早く新しい世界を作ってそっちに行きましょう。わたしはここに残ってお風呂に入ってさっぱりして、ひとりだけきれいなままでいたい。

ひまでひまでしかたないときは脚本を書きましょう。書き方のハウツー本はたくさん出てるから、みんな簡単に脚本家になれます。自分を題材にして2時間くらいのドラマを何回も作ってればきっとひまなんて無縁になります。そして自分は他人と似通ったストーリーしか書けないって気づいて絶望してただ空を見上げるだけのひとになればひまって感じる心のひだがなくなりますし、逆にふざけんなって死ぬほどがんばってお金を稼ぐようになればひますぎる問題は解決です。わたしはここでみんなの脚本をながめてひまをつぶしてますのでおかまいなく。