どこまで

自分以外のだれかが勝ったとか負けたとかどうでもいいやってつぶやいても蝶々結びの蝶々がうまくつくれないのはそのままだし、髪が長いか短いかもどっちだっていいって思っても糸通しをなくしたとたんに針に糸が通せないのは直りません。ソファの色が青から白に変わって、大通りをふと登っていく細い階段の先が暗いことに気づいたときにはもう遅くて、そこに傷つきたくない自分が歩いているから、わたしはなにかを拾うふりをして足を止めて背中の気配を窺いました。わたしがついてきているのではないのですか。

宝石は光を屈折させて返すから美しいんだっていってもひとが屈折してていい理由にはなりません。話すタイミングがずれてばかりでかみあわなくて、ほんのすこしのほころびがすぐに広がってかけ違えた坂道を転がってだれかのポケットに飛び込んでしまうのをただ見守ることしかできなかったのです。背中合わせの狐はだいたいそうで、なにもないところで靴の裏をこすってばかりの自分がどうにも悲しくて、前を向いたって上を向いたってなにも変わらないんだって知ってるのにそういうことばかり言うのですか。

わたしはどうしてもだれかに勝てなくて、どうして買ったのかわからない花柄のハンカチを洗うときにいつもそのことを思い出して途方に暮れているのに、そのハンカチだけアイロンがうまくいくので気持ちの行きどころがありません。ねむる前に自分のことを考えるとねむれなくなるけど、だからってほかのことを考えてねむるようになったらきっとこころにひびが入っていくのに気づかなくなるから、まいにちこころをいったんぜんぶ割ってしまえば明日には元通りってことにしました。せめていい音で割れてくれればいいんですけど。

つよいひとになろうとしても無理だからよわさをみとめられないわたしは