言って

出逢ってしまったって言い切るのはきっとまだ早くて、きれいな満月をきらいな満月って聞き間違えるくらいどうでもよかったかもしれないけど、もしかしたらこれからそう言ったことを悔やむときがくるかもしれないことに気づいていますか。卒業の季節は過ぎました。いままで何回卒業してきましたか。それでなにか変わりましたか。結局なにもない世界に戻るなら、何度裏返したってなにも変わらないなら、間違えてもいいんだと思えますか。だからまた始めてもいいのです。出逢ってしまっても。

満月に気づいたらふと見上げてしまうけど、実は三日月の方がすきっていうひとが多いような気がするのです。だれも困らせたくないのにだれかに声をかけたくなると三日月がやさしかったことばかり思い出のように話してしまいます。手を振ったら振り返してくれるって約束がほしいのです。ちょっと低い声のときはわたしに気を遣ってるんだろうって申し訳ないけど、不意にとぎれる電子音のような手の差し出し方はわたしを飼い慣らそうとするように見えるのですが、そうなんですか。ちょっと引くんですけど。

この世界がなにで出来ているかなんて自分で決めればいいのに、ひとが書いたどこかの歌の歌詞を引いてくるのに気づいています。話がおもしろいって言われないことを気にしていろんな本を読んでいろんな歌を聴いて、いろんな引き出しが増えたことはすばらしいことです。でもおもしろくなったって言われないだろうなってわかってたんですよね。ゆがんだ声が急にクリアになったから時計がびっくりして同じことばを繰り返しくりかえし、つっかえながらうれしそうに、またね、またねって。言えますか、さよならって。