後ろから

そうしてわたしの目がさめた時間が朝になって、地下の駐車場から上ってくる煙がT字路の最後に変わる信号を答えの代わりにして勢いよく走り去っていきました。そのあとに直角に曲がるカーブのそばのベッドから透きとおった音とにごった音が互い違いに、もうすぐ昼になっている半拍とすこしだけ遅れた低い音が這いずってきて、不安定な韻を踏んだ歴史のまんなかにみんな見ているステージのカメラが後ろから前にゆっくりと回っていきます。立ち尽くすことは許されないから息を吸ってなにかをしゃべろうとして息を吐けないことに気づいたらもう夜です。

木目調の壁に交差するものの影がそのままつぎつぎと溶けあってひとつになってしまったらこの星の終わりはそういう結末です。歩こうとした道がいつのまにかずれすぎてしまって、正しいことばと間違ったことばが混ざりあったら間違ったことしか伝わらないのはしかたないことだって、正しいことばだけを受け取れないならことばなんて聞いてはいけないのです。かすれすぎたささやきはだれからも愛されていないと気づいたときからずっと耳もとに、ものさしが役に立たなくて揺れる観客で自分を測るしかないけどまっすぐの文章が見ていないところにあります。

腰かける椅子がない床に反射する窓から見ている黒い髪のひとと白い髪のひとがふたり隣でひとりは両手を広げてもうひとりはぎゅっと抱きしめて、ひとりは先に右足をもうひとりはすこしとまどって左足を、揺れた窓がひとつずつ増えては黒く塗られて、最後まで窓を映していたその瞳も(閉じておけばよかったのに)ぜんぶまっくろになりました。外は強い雨のような気がするけどたしかめるためにドアを開けたらどうなってしまうのでしょう。これからどこが終わるのかは袖のないドレスが知っていて、細い肩をひとつたたかれたら窓から見ていたひとがいなくなります。