遠い光

かかとからつま先へ移っていくなにかの正体がわからないまま指の先まできちんと伸ばせばきれいに見えるっていうからそのとおりに爪の先まで意識していたのに一度も合格点をもらえませんでした。みんなあの日々を笑ったり泣いたりしているみたいですがそんなことができるほどの日々の積み重ねがないひともいるし、なんのとりえもない自分にただひとつだけできることがあるならそれはしあわせだと動画を止めるひともいます。自分が差し出した指にすら思いが届いていないならその先のだれかにそれが伝わるはずがないのです。

うれしかったことばはいつも忘れてしまってうれしかったことしか覚えてなくて、悲しかったことばはずっと一言も忘れずに覚えているからいつまでたっても中と外を入れ替えられないまま、なにがよかったのか、なにがわるかったのか、ねえねえって声をかけることもできず同じところで音楽を聞いているふりをしています。うれしそうに目を細めて笑うことができるひとがうらやましくて、玄関の扉の建付けがわるいだけなのに鍵を閉めているんだってかたくなに、置き配指定したのに足あとを残すのはほんとうにやめてほしいのです。

カメラに真正面から映りたいって夢を一度でも勝ち取ったひとはきっと特別ななにかを持っていると信じていたんだろうって、それを忘れられなくて引きずっているひととカメラに映ろうと思ったことなんて一度もないひととなにが違ったんだろうって、できないのはやっていないこととおなじだって大人が言われてるのを子どものころから見てるから無限の可能性とかを信じるなんてできるはずがないのです。最後に思い出のように鳴ったギターのフレーズを抱きしめて、たいせつななにかを捧げるつもりなんてないんですけど。