持ち物

けっこう長くいっしょにいるくすみカラーのL字ファスナーのペンケースはしっかりしたつくりで、いつもすこし細い視線でわたしのことを見守ってくれています。いつの間にか中に入れるものが思い出ばかりになって、それでも右と左で長さが違う鉛筆のキャップはずっとそこにあるみたいです。毎日かばんに入れてた子どものころからもうおとなになっていろんなことを忘れてしまったけど、これを持ってるときは前を向かないといけなくなることだけは覚えていて、時々まっすぐに見つめるその瞳に応えることはこわいのですけど。

捨てられないスケジュール帳は机の二番目の引き出しの中、書いたそのときには未来だった過去のことをそっとしておくためにちょうどいい温度です。その予定が実際にどうなったかは書いてないけど、まるがついた日付はなんとなく思い出したくないことの方が多いような気がします。もしそこにおとなになってつづったことばがあるならきっとどこか上から目線に、昔の夢を取り戻そうとするとそれはまた夢のままになるからやめておこうっていうのでしょうか。今はもう予定はぜんぶ手元の薄い板の中で、わたしをそっとさせてくれません。

古い年賀状は机の一番下の引き出しにまとめて、もういらないのはわかってるって顔でうつむく視線が開き直って捨てられないでしょってことを隠さなくなるまでもうしばらくかかるかもしれません。毎年判で押した手紙が行き交って、でもそれが大事なことだって、普通じゃないことをしないことがたいせつだって、おとなになるにはしっかり物事を考えなければいけないっていうのはうそですから、最近飲み始めたレモン水で切らしがちな氷をなんとかしなきゃって冷蔵庫の製氷機と製氷皿にお水を入れて、エプロンをかけてやっとひと息です。