ぬれた水を凍った音で固めて高いところから低いところへ、ふらふらといつまでも回らない鍵盤が枕元でそっとほほ笑むと隠れていた糸がつぎつぎと紙に咲いていきます。おおきく口を開けてせいいっぱい出したはずの声は胸の中にしたたるだけでずっとひとりきりのまま、ころがしたさいころの数字に色がにじんでほどけていったのは願いの中にとけただけでうつむいて石をけってばかり、長い夏は歩きはじめてから気づいたことですがまばたきのうちに終わってしまうこともあるのでしょうか。

いらないメッセージがとことこと歩いてぼんやりした傷口の隙間をぬって、左に曲がってぬかるんだ額のタオルがたぶんぽつんとそこに立っていました。ありがとうのことばは埋め立てられてすこし深くなった日差しにそのしるしをなくして、地下鉄の路線図のようにひび割れたかけらになったらだれにも聞こえなくてずっとひとりきりのまま、スマホだけがなにかをつなぐ光のようにふるまうからだれも捨てられなくてうすい声のシルエットをただ追いかけて、もう影にならなければいいのでしょうか。

重いブランケットがとぎれとぎれに伝えたことはぜんぶ吐息にからまって、熱っぽい髪の内側でこぼしてしまったことを責める体温は隠れるようにそのままの小さい水槽のすみっこに座るしかなかったのです。そっちに行けばよかったのかわからないままつぶやいた恋する歌は水の中にゆらめいてずっとひとりきりのまま、まだ遠い夕方の最後に消えたくないのに外の景色がきれいなマーブルのように、手を伸ばしたら届くなにかがほしいものではなかったからって離さなければよかったのでしょうか。

だれかがだれかになったって気にしなくてもよかったのにそんなこと。