つながることのない手のひらの上で回りまわるこころはあいまいで上も下もなくて、ずっと下に下に沈んでいったらいつの間にか上がってたりするかもしれません。交差点で点滅する車の窓に流れる星は遠くから月は近くから、摘んだ明かりを暗くなってきた道ばたに植えて喜んでいると三脚を持ったひとが場所をどこにするかずっと悩んでいるみたいで、なにか言おうとしたらすごくこわい目でにらんでくるからこの夏ですこし焼けてしまった腕をさするふりをして空が見えないところに走って逃げました。
力強く言い切った言葉は角ばってて触るとちくちくしますけど、それでも奥の方まで青い海となにも見えない霧がなんだかしっくりきてしまって庭のベンチにひんやりと座っているだけで転がしてしまえる気がします。やりたいこととできることが違うのはきっと悲しいことじゃないって足りないものを数えているといつも明かりがついている倉庫の中のマネキンが着替えたのに気がつかなくて損するかもしれません。雨がひとつぶ指に当たって空を見上げても、なにも知らないあのころに戻りたいとは思えないのです。
メープルシロップの光が夕暮れをとろりと甘くしたらおうちに帰る時間、メモに書きたい長いことばとお団子を食べる機会がぜんぜんないけど遅れてくる季節には猫がひざ掛けにきっと乗ってくれるから、眠たくてゆれる体をがまんして凍った野菜をゆっくり溶かしています。すぐになにかを見つけられるひとは恵まれていることに気づかないふりをしているだけですから気にしてしまったらおしまいで、手前から奥にすくった金色に透きとおったスープのきらめきは自慢しないように、静かな自分の底に沈めておきましょう。