いつまでも開封されないレターセットがぐっと伸びをして夏の間に溶けてなくなったアイスクリームは記憶の底に、ベンチに座ってなめらかな傷に蜜を塗ると円い銀の庭の鍵が眠りから外れました。もったりとした青い絵の具は間違った計算を直してくれますけどねじれた線をつなげた曲は今も世界のどこかで静かに崩れかけているから、集まった日が落ちるのを待って道を左に沿って歩いて美術館を探しましょう。そこに記録されたものは追いかけて届かなかったことのしるしですから。
画面の向こうにたくさんのたのしいとめぐる熱が、ソファのぬくもりはながめることしかできないひとたちを消していって花の香りが残る瓶に変えます。点々とした後悔といっしょに隠したできなかったことのかけらが風にさわいで星になろうとして、空に歌う船は届かなくてもこれからずっと高く浮かんで、なにかが足りなくてきしむ胸をだれも音にしたためてくれません。いつからでもずれてしまってよかったのに、その支えとなる色はあたたかいものであってはならなかったようでした。
影になってひなたになってなんとなく過ぎていく日々にテーブルクロスをかけて、高鳴ることのない胸はうそつきのことばがわかるようになりました。ひとりの居場所はだれかを探すスポットライトのように、ぬいぐるみの表情になにかを読み取ってはいけないならその額縁の先のまっすぐな指に触れるだけで袖の鈴がちりんと揺れます。目を閉じたら斜めから見てほしいけど壺の中の月を海に沈めたら長い夜が始まりそうで、空っぽにすすけたささやきを聞く猫のためにお水を持っていきましょう。