合唱

行ったり来たりのしっぽに指がとまどって心臓の鼓動がうるさいとき、ひっそりとした街灯の下の木に咲いた花が鏡をくもらせて、コーラスがきらきらと最後の余韻を彗星のように煙に巻いていきます。ぱりぱりしておいしい窓枠にとろみをつけないで、ほそい産声はだれの都合も考えずに引きつけて胸を痛めるのですからいったんここで目線を切らないといけないのに、いつだっていのちをまとったシャツにひざまずいてしまうのを責めることができるひとがいるならペットボトルのキャップをきつくきつく締める覚悟はありました。

ちょこちょこと先を行く子犬はちゃんとついてきているかどうか心配でたまらなくてしきりに後ろを振り返っては後悔してばかりで、転がるボールを追いかけていつの間にかだれもいない教室にぽつんとひとりぼっち、さみしげな昔のことを思い出してばかりではいけないと四つの足に力を込めたばかりなのに上目づかいの日々にすこしだけ疲れてしまいました。あまいあまい静寂と使い古したタオルがあれば、あとお水は欠かさずに、遅くなってすこしくらいがらがらの声でもよろこんでくれる毎日だと思っていました。

ゆっくりゆっくり玄関に迎えに来てくれる年老いた犬の瞳はいつもうるんで、こまかくふるえる毛先がこれから遠くない季節に訪れるつめたい風の糸のように、ドアをゆっくり閉めるはずだったのに驚かしてしまったことをこころから瞳に伏せて、もう抱き上げることもこわくなっている自分にこわくなってそっと差し出す指にとまどうことなく乾いた鼻先を寄せたらひとつの息がほろほろと崩れていくのです。あたたかみのある椅子なんてなぐさめにならないことに触れたら巻いて上る煙をつかんでもなにも残りませんでした。

これからもひとりごとだと思わないフローリングのすみのまるい毛