いくつもの月の光を重ねた読書灯がそっとのぞき込んだチョコレートの熱にまたたきを移して、いくつかのこすれた輪郭が画用紙の上の方に響くとチップが詰まった瓶がほのかにほころびました。内と外に縁どられて切り替わるすりガラスをつたう水滴の向こうから夜が透けて落ちたらそこは一日のまんなかのしるし、天気予報にだまされて伸びをしたアンテナは降り始めた雨に身をすくませて、やがてたどりついた両端で待ち合わせた記憶が振り返ってひとつお辞儀をしてふっと煙ったままです。
額縁のはしっこでとまどいながら小さく手を振る心音はそこにある細かい葉脈のように、お日さまをうすく削ったブランケットはやさしく片方のギターをタップしてからひざの上に、お菓子をつまんだ指でキャップを回したからこの電車は時間調整に入ったそうです。生成りのメッシュバッグの中のまっかなトマトが好きなのにいらいらしてばかりで、届かない招待状の夢を飾る長い髪の線の分け目にかすれていく呼び声はこの季節があと机ひとつぶん深まると編みこまれたところからこっそり紅葉になります。
上から下へ引くところにひとつだけ下から上へ、できれば短い方がいい結び目は夜明けの特別な薄紫の露を袖からこぼして、そのあとどうなったかを気にしてくれていた風や草や川はもういなくなってしまいました。図書館のようなインクをなにかを映すために使うならそれはやがて終わることを知って生まれてこなければいけないから、いつかいのちが尽きたときに名前をだれかに取られてしまうのがどうしても嫌ならば、うれしいという曲線をできるだけシンプルに描くことができるように毎日ペンを握るのです。
