サイネージ

港にはねる波は点々とモノローグにはじまりの物語を刻んで、だれを探しているのか明日になると思い出すはずなのでどこかに刺したピンはそのままに、そうして口にしようとしたことばはデザートにごまかされてモニタのまんなかの点を動かすこともできません。繰り返すしぐさは静けさの包み紙にくるまれたいのにしゃべりかけてくるひとばかり、伏せた瞳はどうやってかたちだけ重ねようか考えながら前髪の奥に隠れたまま、どうせならひとかけらのわがままを連れてきてもいいのかもしれません。だれかに変わるわけでもないですし。

片付いた部屋でなにかを切り抜いたものを見てばかりでこころがふくらんでいきます。ずっとひとりだと自分より自分の顔を見ているひとはいなくなりますから自分らしさは好きなことの言い換えになって、髪を切り終わって後ろから合わせ鏡で見せてくれるときにどう笑っていいかわからなくなる前に自分が自分の顔を元気にしてあげないと手おくれかもしれません。どうしてこころに鍵をかけようとしたのか理由を忘れて、毎日食いしばりが強すぎてナイトガードが欠かせなくて、あとに残ったのはベッドの隅のぬいぐるみだけです。

そのアイスクリームは家に帰るまでに溶けてしまうけど光っている分だけたいせつにしまっておくことにしたのはすこし前のこと、日々の余白にしみ込んだ香りにメッセージを読み取るのは勝手ですけどそれは地球の回る速度と違いますから、身振り手振りではなくいっしょに行くのだと、最初のところまでどうにかしてくれるのだと信じていたのがばかだったのです。みんなそうやっていなくなるなら本を一冊だけ渡しますからそれをどうかわたし以外のだれかだと、わたしはもういなくなったと周りのひとに伝えてください。