ティーカップが花開くとちぎれた夢がゆっくりと集まって、かばんに入れ忘れたハンカチがおうちで待っています。1時間だけのにわか雨に逃げまどう薔薇の花びらのはしっこにくるまって目を閉じたら小さな橋のまんなかで立ち止まってぼんやりながめる庭のすみっこに装う紅葉がひらひらと手を振っている夢を見ました。固いつぼみはなぜだか同じところに開いて、今日は水の上を滑る鳥が描くゆるやかな模様の上を歩いてみたくて靴を脱がないまま、そっとつま先から目覚めていくのです。
細切れの空の歴史に線を引いたような雑踏の向こうの歩道橋の階段が途中で切れていました。そして斜めに入る道の角っこに8等分のショートケーキのかたちをしたビルが窮屈そうに身じろぎしてちぐはぐなひみつを隠そうと入口の段差を埋めていきます。見たことのない場所のカフェの窓は照れくさそうに聞いたことのある曲を映して、カウンターキッチンに座るとうれしそうに店長さんにないしょの裏メニューを教えてくれました。紅茶かコーヒーで迷っているとおこられてしまいそうですけど。
ことばにならない言葉は雨の松葉の先にひとつひとつくっついた露のように、はじめて会ったときからやっと追いついた楽しい思い出がいくつもの宝石になってこんなに重くなって、小さかったころのように約束した日が来るのを信じることができませんでした。わかり合えなかった心は答え合わせのように散り始めてあとはグラスの氷を口に含んで忘れるだけ、離れようとしない古びた庭の飛び石は後ろ髪にささやきを残して、ひとことだけ詰まった声は今もどこかで降る雨にまぎれてかき消されるのです。

