この時期の散歩には要注意、ものを思いながらもうすぐに過ぎて消えてしまう季節に染まった木の下をくぐるとふと適切な涙の数を超えてしまうかもしれません。商店街から焼きソーセージっぽい香りがふんわり漂ってくるのも大問題です。これから広がっていく星に目が回らないように、帰り道に夜空を読むようなことにならないように、見上げた視線はそのままに足はきっと行きたいところに向かってくれるから、いつの間にか買い物袋に入っているあったかいフードパックのことはいったん忘れていいのです。
はちみつのようにしっとりと雨上がりのお日さまに抱きしめられたら涙も止まるはず、ふとしたしぐさにほんとうの気持ちが表れるっていいますけどこれからずっと気持ちを隠して生きていくつもりなのでしょうか。おとなになったのだからほんとうの気持ちを出すことはもうきっとないのだし、そういえば虹をもうずっと見ていないからってパックごはんの味が変わることはないのだし、だれかを思う心を歌うバラードを好きになればたくさんの話がうやむやにごまかされていくんだって教わってきました。
あいまいに打ったスタンプの先には分かれた枝に1枚だけの葉っぱマーク、朝の霧の外には準備ができたひとたちがたくさんのやりたいことをスマホに詰めて一日を更新していきます。透きとおった腕がつぎつぎに引っ張っていってまっすぐ進む道へ、毛むくじゃらの足が蹴とばしたひとは道をそれていって、それでもカフェでひと息つけるならしあわせなことです。つぐんだ口を拭いてリップを塗ったら戻るところを探しに、だれかがつむぐ糸をあつめる仕事があるならそれなりに役に立つと思うのですけど。
