海の中

さみしさが耳もとでこそこそ行ったり来たりして秋になって、その奥からちりちりと震える鈴が踊り出したら冬のはじまりです。あたらしい音がすきとおった星からこぼれてこなくなっても祈るだけでだいじょうぶだった子どものままでいたかったわけではないけれど、溺れていく海月は泡になって消えるその前にゆれる空を見上げるのでしょうか。いつも簡単にふたをしてしまうのになかったことにはできないから爪は服にひっかからないようにできるだけきれいにしています。

壁に埋め込まれた貝がらはざらざらしていてはぐれたこころのように、だれもいない電車は時間ごとわたしを運んでぐるぐると渦巻くかたちの感触にさわることができます。紙で作ったものは美しくてそれをつまんでいる人差し指と親指の先もつるつるになりますようにといつも祈っていました。シャツのネックラインが狭くて疲れてしまって、波のうろこの間をいくら掃除してもぽろぽろとこぼれる屑が止まらない夢はとおくとおく春になれば見ることはなくなるのでしょうか。

わたしの体の中は絶えず動いていて、いつか灯台にともる明かりになってどこかを照らしたいのに不安定なまま、いつの間にか鍵をなくさなくなりましたけどそれだけでは資格がないそうです。ごはんを食べてしまうからだめなのかもしれませんがずっとここに立っているだけで好きだけを集めることができたら言われたことをかならずしますからまだその本を閉じないで。たとえわたしたちが神さまの遺言であったとしても、自分のことをずっと記憶していたくないのです。