ねむり

白線の内側に沿って映える写真をならべていつか空の重心まで、疑うこころは白湯で流して今日も座り心地のいいところを探すだけの一日でした。坂を下ったところにある古めかしいカフェの扉が引いた椅子におどろいて来客を告げると粒胡椒がこぼれてちいさな大理石のすりばちの中に逃げ込んで、ねじ巻きをまわしてできた鍵盤の段差をまるい車のヘッドライトが照らすとほっとして黒と白の粉になりました。ふたりきりに集中する窓ガラスの向こうに貼られた集合写真にいないひとを数えてから話がはじまります。

部屋の角っこにほうり投げた夢のふりをした涙はそこにことりとはまってしまって掃除機をかけても吸い込んでくれなくて、ずり落ちるブランケットがいつまでたってもひとを描くのが苦手なのはひとをひととして見ているからだって足元からささやきかけます。もう一段低い階段にしゃがむだけで風に舞う落葉を見なくていいのなら、その先の踊り場に隠れるだけでこの場所ではないどこかに行けるなら、ゆっくりでもいいからフィルムを巻いて、本の終わりにブックエンドを置いて、そして外に出かける準備をしましょう。

ガラスの王冠をかぶろうとするひとはもういません。手にした夕日が本物だったら記憶になる前にそのしびれを一輪の花に載せて、探しているものが見つかるまで枯れない魔法をかけましょう。ふと視線を感じて振り向いてもひとりではなくて、そっと声をかけられて見上げてもあたたかいランプは遠くにゆらめくだけで、落ちた木の実に二重の取り消し線をつけたら近づきすぎないように、これからなくなるはずの天国に歩いていきます。どこかなつかしい柑橘系の香りがしてきたら確かなことだけを言ってください。