鏡台

向こうの通りを一面に飾るイルミネーションは冬の浮ついた気持ちのあらわれですので絶対にだまされないように、12月に入ってすこしトーンが上がったように聞こえる発車ベルもいつもよりちょっと近い距離からこっちを見ている野良猫もぜんぶ気のせいです。むかしは自分の顔を見る機会なんてほとんどなかったみたいでずっと現実と向き合ってたそうですけど今とどっちがよかったんでしょうか。白と黒の濃淡で違う毎日を同じように感じる鏡アプリなんかすぐに削除してしまえばいいのです。

噓と高いところにある本に気づかないまましおれていく花の10分スケッチがそこそこうまく描けたりして土日はちょっと遠出してみようとかすくすくと勘違い中、できるだけわたし以外のものを探してあっちこっち、うまく見つからなくても甘いものはおいしいと信じていれば年末まであと10日間くらいは忙しそうにできるはずです。今日は指がかさつかなかったとかもこもこスリッパがあたたかかったとかそんな軽やかに過ごしたと思い込んでいた一日の残骸が灰のように積もっていきます。

ぽつんとバランスボールの空気が抜けてくると枯葉がとおくとおく道にささやくからもう一度だけ悲しくはないけどことばにならない季節だってハンカチを落としてください。表も裏もないひとが一番こわいんだって、気持ちの縁へつれていかないで、もうわたしの名前は消してしまいましたからだれかに勝手に思い出を話している無神経さに明日より後の夢を見れなくて鏡の前でうつむくひとがいるのです。毎夜に忘れてしまう雨の温度を測るならとまどいをひとつ、明け方が青くなれば離れられますけど。