寒空

今年も空は夜になってもずっとまぶしくてちっとも眠れませんでした。ひとりでいいのに気を使ってまぜまぜして瓶に入れてラベルを貼って店に並べてくれるひとがいます。同じ方向に吸い込まれていくことばはいらないと言わないと振り向いたときにきれいに落ちた冬の花をぱらぱらと次の日の夢にしてしまうでしょう。まっすぐに上に伸びる光の線を追って一点を見つめるひとへ、たいせつにしまっていたものはいつの間にか古びてほころんでいきます。場違いだとわかってしまったら痛くても手を伸ばすことはないのです。

冬の並木道では植え込みのすみっこの白い花や新しいカメラっぽいものに気づかなくて袖口のほつれた糸もすぐに忘れてしまいます。ひとが横にいると外灯に映えることを知っている木はふたり分くらいのスペースをわざと空けていますからそのちいさな時間におさまるようにてのひらの中の白い息を準備して急ぎ足で、いなくなってもどこでも会えるような風景を撮りましょう。やがて喧騒から逃れた路地裏でずっと前に落としたボタンが花の咲いていない花壇のわきに置いてありました。

川沿いはきっと寒いから今日は違う店に寄って、襟元から過ぎていく体温の行き先をだれにも聞かれなくてもちゃんと新しい年を迎えなくてはいけません。たぶんどちらかといえばお皿は白を選びがちですけどゆっくりとした声で話すと決めたならどうか焦らないで、あとすこしでも今年に抱えていたい身をすくませてしまわないように、きっとこれから返事をしても遅くはないのでしょうけど買い物袋を持ったまま枯葉が枝を離れる一瞬を探しに行ってしまってもいいでしょうか。

今日はいつまでもコートを着ていたいから。