夜空

いちごがたくさん入ったバスケットにあこがれていたわたしは、そんな願いが似合わなくなった年になってもまだ夜を見上げている。田舎は空気が澄んでいて星がきれいだというけれどわたしは田舎の空を知らない。けれど東京だって星は見えるよ。窓ガラスを拭く人がいるから世の中が透き通って見える。高いビルに住む人はきっときれいな星に手を伸ばしている。そういう人がいつか星座になって点と線でつながっていくのを、わたしは地上から眺めている。

夜に雲が透けるのが好きで、それを追いかけて、ずっと友達を作ってこなかった。同じように友達がいないあなたは、SNSに夜の写真を投稿している。あなたはわたしのことが好きなんだと思う。フォローもいいねもしてないけどきっとそうだと思う。だけどネットを通してだと知り合いか恋人にしかなれないから、わたしは今日もなにもリアクションしないでほかの人のところへ飛んでいく。夜の空をただようあいだわたしはあなたの友達にはなれない。あなたはどっちですか。

たゆたう冬の空は今日も宝石のように輝いていて、なにかが押しつぶされてきれいな宝石になるなら、そのなにかはあなたがほかのだれかを好きだった気持ちであってほしい。涙は宝石にはならないよ。だってわたしの流した涙が宝石になったのを一度も見たことがないから。とおくの星が爆発して、光になって消えていく。あなたの気持ちがひとつずつ消えていって、最後に残るのは、一度もひとを好きになったことがないわたしの確かな確信。

ひとの生み出したものではないものがひとの世界に充ちている。