図書館

わたしたちが生まれる前、ぐつぐつと煮えたぎる陸からとおく離れたところ、はずむ明るさにとまどうような最初の海におおきな図書館がありました。初めての利用者はくらげだったそうですが定かではありません。彼女がページをめくったらそれが波になって本がゆらゆらとさまよって、そうして世界中に散らばって海のどこかにいったきりでりっぱな本棚たちはぜんぶ空っぽのままです。今このときも海の中のだれかがページをめくって波はひとときも途切れずに夜明け前でもだれかの明日に触らせてくれます。

やがて冷めた陸に上ってきた海のみんながここにも図書館を作ろうとしましたが、いろんなものが重たいところでは本棚ひとつ作るのもたいへんでした。しかたがないのでそこかしこの山が溶けた岩を吐いた後に空いたうろに棚を刻んでいったん本を詰めこんだのです。図書館ができるたびに本は移されていきましたが、にじむ熱がほどけ切らないそこではまっくらな闇をはめこんだ金ぴかの炉が破けたり削れたりして捨てられた文字のかけらを絶え間なく焚きつづけて、そうしてどろどろになったものが今わたしたちのぬくもりになっています。

冬の午後の日は薄く枯れ枝を透かしてふと止まった水にいつの間にか凪いだ風が浮いていました。光を見すぎた鳥が池にもぐって休んでいます。日だまりにまるくなったベンチのはしっこに座って図書館で借りた本のページをめくるとなつかしくなるのは嘘でも本当でもなくて、ただ答えを探さなくてはいけない日常からじっと戻るためにここにいるのだと、ここはたくさんの波に似たぬくもりを眠らせて過去が過去でないことを証明する庭ですから、今までのことをすべて仮初めだと思わなくてもいいのです。