向こう岸

積み重ねて張りつめたねじまきがゆっくりと抜けていくのを割れたはし置きがおっかなびっくりさわろうとしてこちらを見上げています。おはしって適当に選んでもきっとずっとそばに置いてしまうからなかなかあたらしいのを買えないのですがふるくなってもいやな顔ひとつせずに今日も生活に手ざわり感をくれるから枕くらいはあげたくて、いつか散った花の思い出を道しるべに歯車をまわして出かけます。来客なんてないけどひとりじゃさみしいかもとか思ってしまうのは迷う予感がしているからでしょうか。

ガラスの向こうから薄目でねむっているふりをしていたらほんとうに寝てしまったようなすこしあたたかいつづみのようなかたちに惹かれています。高い空のまんなかに寝ないと居心地がわるいのにいつも本を読むからどこか沈んでばかりのひとはわかってくれるはずです。店員さんに声をかけてもお話に夢中みたいだったからほかのものを見てはまたケースの前に戻ってきたりしてもうちょっとシンプルなのがいいかもとか予感は的中で、夢から覚めてあわててしっぽを振るすがたもよさそうですけど見送りです。

回りくどい社交辞令にうんざりしてゆりかごをひとつゆらして、立ち向かうつよさがあればいいのに青白い吐息ばかり、たおやかなあやめにもかきつばたにもなれなかったわたしはそのあたりの道ばたのすきまに植わる花であればいいのですけど、最近はむしろ名前がない花の方がたくさん歌われてほめられている気がしますからやっぱり買えなくてまた次の週末を待つこの胸の高鳴りもまるで嘘というわけではないのでした。けれど花柄のものを買おうという気にはならないのでもう生きていないのかもしれません。