小品

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静けさ

いつまでも開封されないレターセットがぐっと伸びをして夏の間に溶けてなくなったアイスクリームは記憶の底...
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スケール

立ち止まった空の手前のさざ波が近くに見えたらひとつ増えた窓を開けて、いつもとおなじ本のページがカーテ...
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その間

ひとりで歩くための右と左の空白を水で満たしてつま先まで深呼吸を通したら夜の裏の色に移ろう空がひび割れ...
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行き先

一筆書きで描いた薔薇が奥へ沈む指先の標識であふれる通りに咲いたとき、凍った水と氷が透明なローテーブル...
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ぬれた水を凍った音で固めて高いところから低いところへ、ふらふらといつまでも回らない鍵盤が枕元でそっと...
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紐の先

手すりに寄りかかった風がひるがえってふわりとだれかの後ろに浮かんだ日付が変わるときに消しゴムできれい...
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中の音

時計の音をしまった部屋はやがて鍵盤の上を走って黄色いしっぽが遠いところからころころと波を追い抜いてい...
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微温湯

左足から階段を降りると縦も横も空っぽのカップの中で、砂時計に天井を張っておなじものを持ってきても細く...
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初夏

白いサンダルに日が差してななめになった鈴が鳴ったらアームカバーを忘れずに、葉っぱのかたちをしたかばん...
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大理石の坂道から左右に入るだれも渡らない橋には欄干がなくて、その結び目のまんなかをいくつも重ねられた...