小品

小品

ぬれた水を凍った音で固めて高いところから低いところへ、ふらふらといつまでも回らない鍵盤が枕元でそっと...
小品

紐の先

手すりに寄りかかった風がひるがえってふわりとだれかの後ろに浮かんだ日付が変わるときに消しゴムできれい...
小品

中の音

時計の音をしまった部屋はやがて鍵盤の上を走って黄色いしっぽが遠いところからころころと波を追い抜いてい...
小品

微温湯

左足から階段を降りると縦も横も空っぽのカップの中で、砂時計に天井を張っておなじものを持ってきても細く...
小品

初夏

白いサンダルに日が差してななめになった鈴が鳴ったらアームカバーを忘れずに、葉っぱのかたちをしたかばん...
小品

大理石の坂道から左右に入るだれも渡らない橋には欄干がなくて、その結び目のまんなかをいくつも重ねられた...
小品

星の輪

荒れた指先で空の文字をなぞったら上のほうから聞こえてくる星の羽音に似ていました。時の限りに歌うひとは...
小品

雨音

雨の日の庭を歩くときの自分の足音をどうしても聞きたくないのはことばにならない音をふたつ混ぜたくないか...
小品

余白

正面から左にターンしてひるがえった白いワンピースの裾が右に残るとそこに空白ができて休符になります。リ...
小品

衝動

ドレープの間のこころは隠したまま、多くのものを失ってしまった後でした。過ぎる月日に甘えて好きな服ばか...