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上を見て

特定のだれかにではなくみんなに向けていつもありがとうっていうひとはなにか心にやましいことがあるからだって、いつもなにかを否定してばかりいるわたしがそんなことをいう権利はないけれど、同じ未来を見たいっていわれても声の彩りがぜんぜん違うから、そ...
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逢瀬

風船は青空に飛んでいって、ふくらませたわたしの息がそこかしこに隠れています。どんな手袋をしても指先だけ寒い国はここです。そこでは飴玉が一日にひとつだけもらえます。教会の背丈は少し低くて、水をそのまま飲むことは禁じられていました。通貨はアセロ...
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夜空

いちごがたくさん入ったバスケットにあこがれていたわたしは、そんな願いが似合わなくなった年になってもまだ夜を見上げている。田舎は空気が澄んでいて星がきれいだというけれどわたしは田舎の空を知らない。けれど東京だって星は見えるよ。窓ガラスを拭く人...
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やさしさ

どうせ訪ねてくる人はいないから、わたしは人にやさしくする。ねむれないのに無理やり閉じたまぶたの裏で秋が色もなくこぼれていく。境目はきっとどこかにあるから、どうか私が待っていると伝えないでください。目を閉じても開いても、世界は同じ色をしている...