動物をかたどるビスケットをつまんだ昼下がり、いっぱいの緑をかたむけた大きな木の下の花がさらさらと髪をとかして次の月のない夜の準備をしています。ふわふわと集まって色とりどりの椅子を移り変わってはとりとめのないことをささやいて、たまに影を外れて話し相手がいないひとはうまくまとまらないふりをして不機嫌そうに唇をとがらせて、やがてドレスが色づいてまっくらな水辺に風を失ったら思い思いに手書きの文字を乗せた糸電話を空に託していつか作りものではない温度計のダイヤルをそっと箱にしまう夢を待つのです。
穴のあいたキャンディをのぞいた夕方の電車では360度のオレンジ色に真剣な顔のひとたちが息つぎのしかたを間違えたみたいに床の焦点をじっとあたためています。かたくなに端っこの席に寄って探しものは暗がりにあるんだと信じ込んでしまうとこれから光る粉を散らして終わっていく空はうつりませんし、駅についても扉のそばを離れずにスマホに夢中なふりをしてもひとりだけ降りてあなたではないひとにひかえめに手を振る姿をまねすることはできません。時間調整のアナウンスはほっと肩の力を抜いてねというアドバイスです。
ちっちゃい山をピンクに塗ったチョコレートを食べきれなかった夜にはいろいろと気をつけて、お気に入りのカフェが混んでたら行かない方がいいし、あわがくっついた出来そこないのシャボン玉も明かりを映すけどそれがほんものかどうか思い切って確かめるときは2階のファミレスの窓側の席からにしましょう。あなたには石畳の道をゆっくり歩きながら振り返った笑顔のようなしあわせがあるからそう言うのかもしれませんが、それでもかなしみを分かち合おうだなんてわたしのたいせつなものをだれにもあげたりしませんから。
