逆さ

まだ暑くない夕方の右側をとおす光は次に忘れた季節までひとつふたつとおりながら歩き出したけどきっとそうしたいと思ったからほんのりと明日を手まねきしています。そして夜明けになると終わっていく左側に白飛びした横断歩道をすれちがってだれかのためにまゆを描いたらもうそのときから嘘ではごまかせなくなるのです。かすれた声がほめられるのは最初だけですからせめて雨の向こうには聞こえないようにそれ以上のかたむきを屋上に置いてきて、ぬかるんだ靴底は立ち止まってはいけないとわかっていたのですけど。

もう初めての白黒のロッカールームをとおした視線はショート丈のオレンジのシャツにたのしそうにつかまったところでおなじ言葉をくりかえすシャッター音にまぎれてこっそり胸のうちの写真を書きとめていました。はじけるようにモップをかけていっせいにひらけていく青い空は一拍おくれて一瞬の真剣なまなざしにクレッシェンドをかけられて首にかけたやさしさとセキュリティカードがゆれるのを止められなくて、車のドアは所在なげに歩道にまたがって足をぶらぶらさせています。

長いフライトの窓を守って流線型に変わっていく星のそばをねこのしっぽがゆらゆらととおりすぎていきます。いつも寒い空港のロビーはつなぐ口実を探してエントランスから外れた両手の幅より長いベンチにはね返る鏡のようなアナウンスではここからではもの足りないのです。けれどもどこへ行っても雲を待つひとはいるもので昨日からせかすように別れを飾る街灯はどうせ役に立たないとつぶやいたひとりごとにおどろいて、いつのまにか手にした地図は止まっていたのでした。